池凍東頭風度解 窓梅北面雪封寒【藤原篤茂】

『和漢朗詠集』の二番目に登場する漢詩が、「池の凍の東頭は風度つて解く 窓の梅の北面は雪封じて寒し」です。

藤原篤茂(ふじわらのあつしげ)の作と伝わります。

このページでは、漢詩の現代語訳はもちろん、漢文文法や言葉の意味、詩が詠まれた背景などを解説します。

漢詩の解説

池凍東頭風度解
窓梅北面雪封寒

(和漢朗詠集・立春・2 藤原篤茂)

詞書:立春日書懐呈芸閣諸文友

書き下し文

池の凍(こほり)の東頭(とうとう)は風度(わた)りて解く
窓の梅の北面(ほくめん)は雪封じて寒し

詞書:立春の日、懐(かい)を書して芸閣(うんかく)の諸文友(ぶんゆう)に呈す

現代語訳

池に張った氷の東側は、春風が吹いて解けはじめている。
窓際に植わる梅の北側は、残雪が枝を閉じ込めて(まだ花は開かず)寒々としている。

詞書:立春の日に、思いを書いて御書所(宮中の書庫)の友人たちに贈る

語釈(言葉の意味)

漢詩の語釈

とうとう【東頭】
 東のはずれのあたり。[日国]

わたる【度る・渡る】
風などが吹き過ぎる。[日国]

ほくめん【北面】
北に面すること。また、北の面。北向き。北側。きたおもて。[日国]

ふうずる【封ずる】
とじこめる。封じこめる。[日国]

詞書の語釈

かい【懐】
心の内。思いや考え。[日国]

うんかく【芸1閣】
平安時代、宮中の書物を扱った御書所(ごしょどころ)のこと。書物の保管や書写を行ったとされる。

ぶんゆう【文友】
詩文を通じての友人。詩友。[日国]

ていする【呈する】
さしだす。進呈する。贈る。奉る。[日国]

文法

修辞法

対句
東の春と北の冬を対比している

鑑賞

「東風が春をもたらし池の氷を解かす」というのは中国から伝わった考え方で、四書五経の『礼記』に見られます。

東風解凍(東風凍を解き)
蟄虫始振(蟄虫始めて振く)

『礼記』月令 孟春之月

陰陽五行説では春を東、冬を北、秋を西、夏を南に配置します。
この詩では東側から吹く春風に解けてゆく池の氷と、北側の雪が積もった寒々しい冬木を対比させているのです。東側に風の動的な様子を、北側に梅の木の静的な姿を描写しています。

注釈には「藤原篤茂が近江少将の娘と結婚したいと申し出た際、少将の許しは得られたものの少将の妻の了承が得られなかったが、この詩を作ったところ感激され結婚の許しを得られた」とあります。
池の氷を少将、梅に積もった雪を少将の妻に見立て、それぞれの結婚への態度を例えているのでしょうか。

作者紹介

藤原篤茂(ふじわらのあつしげ)
?~?年

平安時代の官吏、漢詩人。
天暦年間(947-957年)に文章生(もんじょうしょう)となり、少内記や図書頭(ずしょのかみ)を務めた。

  1. 芸閣の芸という字は本来、3角の「艹」ではなく4角の「十十」。芸の異体字ではなく別字であるが、フォントの関係で本記事では芸と表記した。 ↩︎